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PHOENIX CASE:地域有数の観光施設×戦略投資による事業再生

故郷の「宝」を後世に引き継ぐ
その覚悟をもって事業再生に臨みました

株式会社玉川温泉

代表取締役社長 畠山米一氏
常務取締役 和田耕悦氏

お客さまの減少と膨らむ債務 重なったマイナス要因

 当社は、1932年から湯治宿として多くの方々にご利用いただいている玉川温泉と、山岳温泉リゾートとして1998年に開業した新玉川温泉、この2館の経営を行っています。世界でも珍しい塩酸を主成分とした強酸性の泉質と、近隣には岩盤浴発祥といわれる天然岩盤浴地があることが大きな特徴です。玉川温泉は、お客さまの口コミで病気やケガに効用があるという評判が広がりました。さらに、テレビで紹介されたことで、昭和から平成にかけてたくさんの方が押し寄せるようになったのです。これは大変ありがたいことなのですが、徐々にお客さま優先ではなく、自分たちの都合に合わせてもらうような接客になっていきました。
 お客様に対する姿勢もそうですが、事業再生に至るまでには、いくつかのマイナス要因がありました。その一つが、玉川温泉とは異なる地域に所在する創業ホテルへの過大投資です。事業再生に至る過程で3館同時再生は困難とされ、創業ホテルは売却されましたが、玉川温泉で獲得した利益を創業ホテルの改修や運転資金に充当しておりました。1996年には多額の資金を投じてリニューアルを行い、その2年後に新玉川温泉をオープンさせたことで、借入が大きくなったのです。しかし、投資計画どおりに業績が向上せず、厳しい状態が続いていたところに、2011年、東日本大震災が発生。お客さまの数は約6割に激減して、資金繰りが逼迫しました。さらに翌年には、天然岩盤浴地で雪崩事故が発生し、お客さまの減少に拍車がかかってしまいました。

地元企業の協力を得ることで芽ばえた事業再生への覚悟

 温泉と岩盤浴ブームの波に乗り、たくさんのお客さまが来てくださいましたが、2005年をピークに玉川温泉と新玉川温泉とのお客さまの数は少しずつ減少していきました。震災後は債務が年商の何倍にも膨れ上がり、従業員のベースアップはもちろん、故障した設備を修理することもできない状況に陥っていました。そこで中小企業再生支援協議会(現 中小企業活性化協議会)に駆け込んだのです。そこからは中小企業再生支援協議会からの支援を受けることになり、その過程で、メインバンクである秋田銀行より、地域経済活性化支援機構(以下、REVIC)による支援を提案されました。REVICの支援が決定したのは2016年10月でした。さらに秋田銀行をはじめ、地元の企業9社が出資してくださることも決まり、大変ありがたかったです。実は、震災前から経営改善が必要という認識があり、コンサルタントにも何度か相談していましたが、決め手となる打開策を見いだせず、経営改善が進まなかったという経緯もありました。しかし、REVICは責任者の方が従業員の意見を聞き取り、皆の考えを理解した上で再生のための提案をしてくださいました。その真摯な姿勢と丁寧さに、「ここで立ち直らなければ後がない」と腹が決まりました。

戦略的な投資にもとづいたサービスの向上

事業再生支援を受けることができたのは、次のような理由からでした。一つは「湯治文化」を色濃く残す玉川温泉と新玉川温泉を合わせて、当時で年間延べ16万人ほどが誘客できる施設は、秋田県内には他にない有数の観光資源であるということ。そして、98℃の強酸性の温泉が毎分9,000リットルも湧出しているのは、国内でもこの場所以外にないということ。加えて、その源泉の近くでは、特別天然記念物である北投石が産出されるということで、これらは秋田の「宝」なので、ぜひ残すべきであるということでした。
 事業再生に向けて実際に行ったことは、玉川温泉と新玉川両温泉の位置づけを明確化し、戦略を立てることでした。玉川の方は湯 治客、新玉川は観光客を受け入れるという方針をもとに戦略投資を立案。計画策定期間中の返済猶予によって手元資金がリザーブされておりましたので、取引金融機関のご理解をいただいたうえで、これを投資資金として活用しました。

 まず玉川温泉の客室改装を行い、エレベーター3基を設置。お客さま同士が交流できるコミュニティルームをつくり、自炊棟の炊事場を改修しました。一方の新玉川温泉は、殺風景だったロビーを木のぬくもりが感じられる空間にリニューアルし、新たに屋内岩盤浴場を館内に設けました。両温泉共通の課題は、食事のメニュー構成と従業員の接客姿勢でした。お客さま目線でのサービスについて考え、自分たちのやるべきことを再構築しました。また、限られた人材をフル活用すべく、一人の従業員が2、3役をこなせるよう、担当以外の部署の仕事を経験しながら、マルチタスクをこなすスキルを磨きました。これは現在も続けており、新型コロナウイルス感染症で宿泊客が激減したときでも、最低限の人数でシフトを組み、通常と変わらないサービスの提供を可能にしました。そして雇用調整助成金や各種支援金・補助金などの支援をいただき、未曽有のパンデミックを乗り切ることができました。
 このようにして事業再生を進め、2021年6月には秋田銀行などからご融資いただき、REVICから支援いただいた出資金と融資をお返しすることができました。ハード面の改修や、従業員の意識改革に着手するきっかけになった事業再生ですが、第三者からいただい客観的なアドバイスは、会社の成長にとって非常に有益であることを痛感する機会にもなりました。

今後のVISION

「健康」をテーマにした環境づくりを充実 インバウンドにも注力してまいります

 お客さまに喜んでいただけるよう、「健康」をテーマに湯治文化のある当地ならではの環境整備を行っていきたいと考えています。現在、温泉利用型健康増進施設の認定を受ける準備を進めており、スポーツジムも新設しております。また、2年前に旅行業を取得し、日帰りツアーなどを企画してきました。今後は、その内容をより充実させて、お客さまに体と心をリフレッシュしていただける提案を続けてまいります。さらに秋田空港と台湾を結ぶチャーター便が運航されることになりましたので、これを契機に、インバウンドに対するプランづくりにも力を入れていきたいと思っています。

フェニックスのポイント

●会社の内部要因と震災等の外部要因により直面した経営危機。

●支援機関と地元企業の後押しがあり、会社全体で覚悟のもと取り組んだ事業再生。

●ポイントは、事業再生のなかで未来への戦略的な投資を実施できたこと。戦略にもとづく人的投資によりサービスの質も向上。

会社概要

株式会社玉川温泉

事業内容/ 玉川温泉、新玉川温泉の運営

代表/ 畠山 米一

設立/ 1943年

所在地/ 秋田県仙北市田沢湖玉川字渋黒沢

電話/ 0187-58-3130

ホームページ/ https://www.tamagawa-onsen.jp/

お問合せ

東北経済産業局 産業部 中小企業課

〒980-8403 宮城県仙台市青葉区本町3-3-1
TEL: 022-221-4922
MAIL:bzl-tohoku-shokei@meti.go.jp