RESTART TOHOKU -再挑戦の価値が認められる社会を、東北から-

PHOENIX CASE:地域を代表するものづくり企業×変化に立ち向かう事業再生

笑顔で仕事をすることをあきらめない。
それが経営のモチベーションです。

アルファ電子株式会社

代表取締役社長 樽川千香子氏

震災による避難生活で得た自分自身と向き合う時間

 これまで、大きな経営危機を4回経験しました。バブル崩壊、ITバブル崩壊、リーマンショック、そして東日本大震災です。私が経営に参加し始めたのは震災のあとからで、その前の3つの危機は、現在会長である父がすべて乗り切ってきました。
 当社は電子機器および医療機器の設計、開発から試作・量産までを行っていますが、地震のあとに起きた東京電力福島第一原発の事故により、そこから100キロ近く離れている当社でも、「放射能の影響があるものは使いたくない」と、次々と取引がなくなりました。工場の天井が落ちるほどの大きな被害を受けても、11日後には工場を再開。原発から離れた場所でならと栃木県の空き工場を利用して、新たに15人を雇用、危機を乗り越えようとしました。しかし、結局は大口の顧客2社が取引を停止し、私たちの前から去って行きました。
 震災後、私は生まれたばかりの娘を抱えて、新潟で避難生活を送っていました。製造業の会社でパート勤めをしていたのですが、その会社の社長さんが、たまたま父のインタビュー記事を雑誌で読み、経営方針などに共感してくださったとのことで、「あの方の娘さんなら、きっと会社経営ができますよ」と言ってくださいました。このとき、会社では夫が次期社長として頑張っていましたが、価値観の相違から、私自身は夫が会社を継ぐことに不安を感じていたのです。そんなこともあり、「経営者になれるのでは」と言ってくださった社長の言葉をきっかけに、経営に関する本を読み、セミナーを受講するようになり、簿記の資格も取得しました。避難生活では、自分に向き合う時間がたくさんありました。結論として、私は夫と離婚し、これまでたくさんの愛情を注いでくれた両親に恩返しのつもりで、父の会社に入社することを決めたのです。

つらい経験をプラスに変換 課題解決に取り組む力に

 私が入社したのは2015年の夏です。震災後は東京電力からの補償金が入ることで決算時は黒字になるものの、毎月赤字という状況でした。その補償金も2016年に終了。2017年、何とかしなければと、私が資金繰りと財務管理を前任者から引き継ぎましたが、状況は悪くなるばかり。翌年の年始にはメインバンクから新規融資はできないと通達を受けたのです。これは倒産を意味します。ここが事業再生の起点となりました。
 2018年5月、二人三脚で再生に取り組んでいた常務と中小企業再生支援協議会(現、中小企業活性化協議会)に出向き、経営改善計画策定支援を申請しました。支援を受けることが決まると、プロのコンサルタントがデューデリジェンスのため1週間会社に常駐し、窮境要因や課題の洗い出しを実施。それをもとに、今後10年間の事業計画を作成し、借入金のリスケジュールを実施するために、取引のあった8つの銀行に頭を下げました。数カ月前に借り入れをしてしまった銀行からは厳しいお叱りも受けましたが、このことで銀行との取引について学ぶことができたとプラスに考えています。コンサルタントの皆さんから指摘を受けたのは、これまでの経営が利益度外視の人情型になっていた点。過去の経験から事業再生に対してネガティブだった社長であった父を説得し、父もその事実を冷静に受け止めてくれました。事業再生の改革について来られずに退職した従業員、銀行には迷惑をかけてしまいましたが、過去の膿を出し切るよいきっかけになったと思っています。

クライアントに左右されない独自の「強み」を開拓

 事業再生で目指したのは、5年で利益が出る体質に改善することでした。そのために行ったのは、毎月300万円の赤字を出していた栃木事業所の閉鎖と採算の合わない仕事をやめることでした。栃木事業所で勤務していた15名には、一人ひとりと面談して閉鎖 の必要性を説明し、福島本社での勤務をお願いしました。長距離通勤が難しいことはわかっていましたので、やりとりを重ねる中で次の就職先を紹介したり、その会社に一緒に行ったりと、できる限りのことをやったつもりです。経営者として、事業再生におけるとても苦しい局面となりました。
 もう一つ、採算の合わない仕事については、利益がゼロの仕事もありましたので、取引が消滅することも覚悟の上で、クライアントに価格交渉に乗り込んだこともあります。その結果、約50社の取引を発注数の多い上位15社に絞ることができました。これによって従業員の負担が軽減されて生産性も向上、5年で利益を出す目標を3年で達成できました。

 その間も、クライアントの都合に左右されない自社製品で売上を確保する道を模索。この中で2021年に発売した米粉麺「う米めん」(うまいめん)は、現在も順調に売上を伸ばしています。きっかけは新潟で「あなたなら経営者になれるのでは」と言ってくださった社長が、米粉を提供してくれる企業を紹介してくださったことで、そこから商品開発が始まりました。発売直後から多くの賞を頂戴し、高品質で安心して食べられるおいしい麺として話題になり、売上は右肩上がりです。今後は安定した利益の確保を目指していきたいと思っています。

今後のVISION

単に「変わること」を目的とせず、「進化」を伴う成長を目指す企業に

 事業再生から5年目となった2023年1月、アクションプランに記載した通り、3代目の社長に就任しました。ここまで来られたのは、従業員と私自身、そしてその家族が笑顔でいられることをあきらめなかったこと。その1点に尽きると思います。これからも、会社が変化を求められるときというものは、必ず訪れると思います。そのときには変わることを恐れず、そして、蛻変(ぜいへん:蝉などが脱皮を繰り返して形を変化させることを)と言いますが、ただ「変化」するだけでなく、幼虫からさなぎ、成虫へと「進化」することに意識を向けたいと考えています。これも、今回の事業再生の経験を通して学んだことであり、これを糧にして一歩ずつ、成長していきたいと思います。

フェニックスのポイント

●事業再生を決意し、苦しい局面に正面から向き合いながら、社内の改革を着実に実行。

●取引関係を見直し、クライアント企業との関係性再構築により収益性を向上。

●ネットワークや人とのつながりを活用しながら、自社ブランド立ち上げ、異分野進出の新規事業を実現。

会社概要

アルファ電子株式会社

事業内容/ 医療機器製造、SMT実装、食品事業(米粉麺、米粉、キクラゲ)ほか

代表/ 樽川千香子

設立/ 1969年

所在地/ 福島県岩瀬郡天栄村大字飯豊字向原60-2

電話/ 0248-83-2139

ホームページ/ https://www.alpha-d.com

お問合せ

東北経済産業局 産業部 中小企業課

〒980-8403 宮城県仙台市青葉区本町3-3-1
TEL: 022-221-4922
MAIL:bzl-tohoku-shokei@meti.go.jp