社長就任時に改めて認識した驚愕の負債額
今年、一心亭は39周年を迎えました。私の父が創業し、現在は焼肉レストラン一心亭を青森県内に8店舗、函館に2店舗、この他、県内で展開している肉バルおよび焼肉丼の専門店と合わせて、12店舗を展開しています。これまでの39年を振り返りますと、経営的に最も苦しかったのは、2001年に発生したBSEの影響によって、お店からお客さまが離れていった時期です。
経営はBSEが発生する2000年までは順調でした。年間1回は大型の投資を行い、店舗を増やしていたのですが、BSEが発生したことで、当時は当社に留まらず、牛肉を扱う企業は非常に苦しむことになりました。私たちはアメリカ産牛肉をメインに使用していましたので、2003年にこれが輸入停止になったことで経営が窮地に追い込まれたのです。創業以来、私たちは「正直であること」を信条としてまいりましたので、肉の産地の変更をお客さまに伝え、理解を得ようとしました。しかし味の変化は歴然としており、その上、風評も影響してお客さまの足が遠のいてしまったのです。当然、売上も急降下していきました。
大変な苦境に立たされていたはずなのですが、新店舗をつくることは計画通りに行っていました。土地を購入して新築した店が2店舗、そして、この少し前に建てた店舗もあり、そちらもBSEの影響から業績不振に陥っていましたので、短期間に相当額の投資を行い、負債が非常に大きくなっていました。そこで、当時病気療養中であった父に代わり、私が社長に就任して、経営の立て直しを図ろうとしました。それが2007年です。それまで、私は料理の商品開発、企画や販売促進、店舗巡回など営業全般の仕事に従事していましたので、改めて正確な負債金額と会社の財務状況を再認識したときは、かなりのショックを受けました。

運転資金を融資に頼る現状からの脱却
大きな負債をなんとかしなければと対策を講じ始めた矢先に、父が亡くなりました。その通夜、告別式にはたくさんの方々が集まってくださいました。このときから、具体的な事業再生が始まったと言っても過言ではなく、告別式に来てくださった地方銀行の支店長が、父の葬儀の様子をご覧になり、「このように地元に愛される会社をつぶしてしまうようなことがあってはなりません。当行が応援しますから事業再生に取り組みましょう」と、メインバンクではないにもかかわらず、提案してくださったのです。父に対して、温かい感謝の言葉をかけてくださる方がたくさんいたことに心を動かされたともおっしゃってくださいました。営業利益の約半分が利息の支払に消えていくような状態で、毎年、運転資金の融資がないと経営ができないところまできていましたので、ありがたいお申し出でした。当社は、創業当時から味や食材の品質を大切にするのはもちろん、定期的な「店舗改装による業績改善」というものを重視してきました。しかし、従業員へのボーナスの支給や昇給を保留にする状況では、改装どころではありません。そこでアドバイスをいただいた通り、毎月の返済額を身の丈に合った額に設定し直し、返済期間を延ばしていただく返済のリスケジュールを行いました。
窮地を救ったのは「正直であること」という信条
リーマンショック、デフレと厳しい経済情勢が続き、1回目のリスケジュールをお願いしたものの、経営状況が好転しない状況が続いていたところに、東日本大震災が起こりました。これは2回目のリスケジュールも避けられないと模索していたとき、再び同じ地方銀行が中小企業再生支援協議会(現 中小企業活性化協議会、以下、協議会)に相談することを勧めてくださいました。それが2012年です。さっそく協議会に伺いましたが、当社は支援対象となる企業の条件に合致しないところがあったために、震災で被災した企業を支援する産業復興相談センターの方につないでいただくことになりました。公認会計士の会社からコンサルタントの方が来られて、数日にわたって売上高や利益などを調査。事業再生計画を作成し、最終的に支援を受けることができました。

その後、順調に事業再生は進みましたが、2020年、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい始めたのです。また客足が途絶えるのではないかと戦々恐々としていましたが、それは杞憂に終わりました。BSEのときもそうですが、正直な商売を大切にしてきたこと、またコロナ前から取り組んできたタッチパネルや配膳ロボットの導入、テイクアウトメニューの拡販、強力なイベントや販売促進の実施等により、売上の低下は1割ほどに留めることができたのです。焼肉レストランはロースターから出る煙を強力に排出しており、店内が常時換気されていることもあって、「一心亭なら、しっかり感染対策をしているから安心できる」と、たくさんのお客さまが来てくださいました。支えてくれたのは従業員も同じです。父の時代から「従業員を大事に」という信念を貫いてきたことで、経営が苦しくても人員整理を行いませんでしたし、一時的な所得減があっても、それが理由で辞める従業員はいませんでした。また、事業再生の期間中に社員教育など人的投資を進めてきたことで、会社の強みである接客力を高めることができました。信念に従い、正直に商売をやってきて本当に良かったと思います。ありがたいことに、現在はコロナ前の2019年よりも約2割、売上が伸び、社長就任以来過去最高売上を更新し続けています。
今後のVISION
事業再生を経験したことで、計画的な事業展開の大切さを実感
おかげさまで、事業再生から成長のフェーズへと移行することができたいま、これまでを振り返ってみると、協議会に出会わなかったら、この会社はなくなっていたかもしれません。公認会計士であるコンサルタントの方を派遣してもらい、丁寧に要望を聞いていただき、このような事業再生を経験したことで、身の丈に合った事業計画を立て、計画的な設備投資を実行することの大切さを実感しました。今後は、ドミナント戦略でコンスタントに店舗の出店を実現していきたいと考えています。そのためにも、上質なタンパク源であるお肉を食べて、元気を維持していきたいと思います。

フェニックスのポイント
●経営環境の変化と急速な店舗拡大によって直面した経営危機。
●金融機関や協議会といった専門家の伴走で、苦しい局面でも正面から事業再生に取り組む。
●再生局面における計画的な設備投資と、強みを強化するための人的投資により、再生から成長まで一気通貫で実現。
