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PHOENIX CASE:地域の金型製造業×事業を新機軸へ移行しながら進めた再生

私たちの技術力を信じる人に支えられ、
事業再生に取り組むことができました

株式会社プロスパイン

代表取締役会長 小林敬氏
代表取締役社長 渡部竜也氏

海外に移転する生産拠点 事業の新機軸を模索

 当社が開発から製造、販売を行っているマグネットギア(非接触動力伝達装置)は、磁力の反発と吸引によって接触せずに動力を伝えるユニットで、磁力を使っていることから「磁気歯車」と呼ばれる装置です。競合が何社かありますが、製品の設計から加工、検査に至るまでを一貫して行うことができるのは当社のみで、カスタマイズした特注品を製造できる総合力が強みです。創業から金型部品の製造と販売を行ってきましたが、現在はこのマグネットギアが売上の8割以上を占めるまでになりました。一方、金型部品の製造は縮小しているとはいえ、レイオフなどを実施することはなく、人材・機械とも、マグネットギアの製造にスムーズに移行することができています。
 これまで何度かの経営危機がありましたが、2000年あたりは金型産業も世の中の例に漏れず、海外への転注が増加。従来の業務だけでは先行きが不安になり、新機軸となるものを探していました。その過程で出会ったのが、東北学院大学工学部の鶴本勝夫先生です。当社の財務状況は、決してよいとは言えない状態でしたが、さまざまな補助金などを活用しながら、鶴本先生とともにマグネットギアを研究し、製品を開発。2003年には宮城県の「みやぎものづくり大賞」で最高賞のグランプリを受賞することもできました。そもそも当社が、金型製造への参入が地域の中でも後発組であったことも、金型事業からマグネットギアへの事業転換を迅速に行うことができた要因だと思います。この事業転換は順調に滑り出しましたが、完成度を高める研究開発は、その後も続きました。

ワンマン経営による事業提携の失敗

 より深刻な危機は、同じ時期、とある大手企業と事業提携をして、加工事業の拡大に取り組んだことから始まりました。この事業のために、人員も増員し、新工場を建設。2008年頃までは順調に伸びていったのですが、先方の会長が健康上の理由で休養している間、責任の所在が不明瞭のまま、事業停止に追い込まれたのです。結果的に、当社には大きな負債だけが残ってしまいました。このことから猛省したのは、トップ同士で勝手に進めることなく、皆で検討しつつ事業を行う体制をつくらなければならなかったということです。相手の企業だけでなく、お互いのワンマン経営が引き起こした失敗でした。
 これによってもたらされた損失は大きく、当時の財務状況は、年間売上対比で累積欠損金が売上と同等でした。当時は、この負債を背負ったまま、マグネットギアの研究開発、そして会社の経営を行わなければならない状況でした。それでも会社を畳んでしまおうと思わなかったのは、鶴本先生を筆頭とする共同研究の相手の存在があったからです。金融機関からの借入はできない状態にありましたので、経済産業省をはじめ、技術財団や開発機構の技術支援の助成制度を活用するなどして、研究開発を継続するための体制を必死に整えました。

信頼出来る人物、機関に相談

 経営環境はリーマンショック、東日本大震災の影響を受けて、依然として厳しい状態が続きました。このような状況の中で支えとなったのは、当社のマグネットギアを「将来、必ず売れるデバイスになる」と言ってくれた方々の言葉と、基本給の10%カットや賞与が出せない状況にも関わらず、会社を信じて頑張り続けてくれた従業員の存在です。そして、最後の最後に事業継続を助けてくれたのは、宮城県信用保証協会でした。金融機関への返済を一時休止し、商工中金など金融機関が連携して、それまでに積み重なった債務のリストラクチャリングに必要な資金を融資してくださいました。商工中金からの融資に、資本性劣後ローンを適用していただいたことは大変ありがたかったです。

 実は、当初商工中金から提案されたのは第二会社方式でした。会社を立て直したら、従来の加工業を整理しようとも考えましたが、それに反対する従業員もおり、次期社長の渡部が金属加工事業も併せて承継する意志をもっていましたので、第二会社方式は選択せずに事業再生を進めました。2020年のことです。資本性劣後ローンについては、10年期限一括償還型なので、10年後に返済を完了すればよいのですが、現在、それを返済できるほどの資金を保有するところまで事業再生を進めることができました。実際に返済するのはまだ先になりますが、マイナスだった経営がやっとゼロになり、まさにプラスに向かってスタートが切れるところまでたどり着いたという心境です。
 当社の事業再生によって、ご迷惑をおかけした方々もいらっしゃいますので、大きなことは申し上げられないのですが、何かアドバイスのようなことが言えるとしたら、まず本業を愚直に頑張ることだと思います。同時に、さまざまな機関と交流して情報交換をし、業界の最新トピックを収集したり、人脈を広げたりすることが大切だと思います。経営者というものは、どうしても一人で抱え込んでしまいがちです。ですから、いざというときに相談できる人脈をつくり、「これはまずいな」と思うことが起きたら、なるべく早く信頼出来る人物、機関に相談することが経営の危機回避の第一歩だと思います。

今後のVISION

マグネットギアの特色をPRし、食品や医療関係にフィールドを拡大

 マグネット製品をワンストップで製造できるという当社の強みを伸ばしながら、マグネットギアを全国に周知するためのPRに力を入れていきたいと思います。マグネットギアは非接触で摩擦がなく、騒音や振動もありませんので、衛生面が重視される食品や、動作音の静かさが求められる医療業界での活用を期待しています。現在は、装置の一部を製造している段階ですが、その領域を広げてユニットとして提供し、長期的展望としては、最終製品をつくるというビジョンをもっています。同時に新たなイノベーションを起こし、事業の新機軸をさらに増やしていきたいと考えています。

フェニックスのポイント

●創業事業である金型製造の海外転注と、トップダウンの意思決定により訪れた経営危機。

●助成制度のフル活用により、強い意志のもとで取り組んだマグネットギア事業への事業転換。

●金融機関による将来の事業まで見据えた柔軟な事業再生支援。

会社概要

株式会社プロスパイン

事業内容/ 磁石製品の開発・販売、精密金型部品製作ほか

代表/ 渡部竜也

設立/ 1978年「有限会社松栄工機」を創業、2011年に「株式会社プロスパイン」に社名変更

所在地/ 宮城県大崎市松山次橋新千刈田117番地

電話/ 0229-55-2579

ホームページ/ http://www.prospine.jp

お問合せ

東北経済産業局 産業部 中小企業課

〒980-8403 宮城県仙台市青葉区本町3-3-1
TEL: 022-221-4922
MAIL:bzl-tohoku-shokei@meti.go.jp