公共工事激減や特別損失の計上で3社とも窮地に
当社は2012年に設立した総合建設企業です。山形県内を中心に橋りょうやトンネルなどの土木事業、公共施設を主とする建築事業、解体・リサイクル事業などを展開しています。従業員は180人、年商は年によって変動しますが50億円前後です。社名から、県外の方には「共同企業体(JV)なんですか?」と尋ねられることもありますが、地元では頭文字を取って「スリーS(エス)」という呼び名で通っています。
当社のルーツは、戦後に同じ最上地域で創業し、別の市町村に本拠を構えていた3つの土木建築会社です。最上地域で数多くの公共工事を手掛けたほか、建築事業も展開し、地域の発展を支えてきた歴史があります。
事態を一変させたのが、1990年代からの公共工事の激減です。業績が下降線をたどる中、2000年には農業土木事業をめぐる入札談合事件で、3社とも多額の特別損失を計上する事態となりました。また、バブル期に手を広げていた投資も収益にはつながらず不良資産となって、財務状況は悪化するばかりでした。経営者同士は旧知の間柄で、「合併してはどうか」という話が出たこともありましたが、話が進むことはありませんでした。打開策が見えない間も事態は深刻さを増していき、資金繰りに窮する状況でした。
メインバンクの提案により第二会社方式による事業再生へ
窮地に立たされる中、2010年に3社共通のメインバンクから提示されたのが、いわゆる「第2会社方式」による事業再生でした。スポンサーの支援を受けて新会社を設立し、旧会社の事業を吸収、債務を分割して旧会社を法的整理する手法です。当時は全国的に見ても事例が少なかった手法だと聞いています。
雑談として挙がっていた「合併」の選択肢が急に現実味を帯びる形となりました。第2会社方式の事業再生は債務負担の軽減と合わせて経営者責任も問われるものでしたが、どの経営者にも合併への抵抗はありませんでした。「頑張っている従業員の雇用を守りたい」という思いが、それぞれの会社を残すことよりもずっと重要だったからです。お互いに隠し事はしないこと、厳しい中でも大切にしてきた各社の強みをどう生かしていくか前向きに議論していくことで一致し、協議のテーブルにつきました。
新会社設立にあたって受けたのが、中小企業再生支援協議会(現 中小企業活性化協議会)の事業再生計画の策定支援です。メインバンクは3社が同じでもそれぞれ他行との取引もあり、複雑な金融調整のためには、第三者の専門家による分析と助言によって実現可能な経営改善計画を作成することが必要となります。専門家のデュー・デリジェンス(DD)で真っ先に明るみになったのが、利益率の低さでした。特に予算管理の甘さについては「どんぶり勘定」だったので、厳しい指摘を受けました。工事の種類や現場ごとの収益分析のもとに管理手法など改善策の提案も受けました。客観的な数字をもとに「もっとこうしたらいいのに」と話し合ったことでその後の経営改善を進められたと思います。
同じく3社共通の課題として挙げられたのは、取得したものの活用していない大量の遊休地です。こうした不良資産を全て手放し、資産を業務に必要なものだけに絞ることにしました。
さらに固定費の削減についても課題となりました。人員の削減も検討せざるを得ない状況でしたが、検討をしている最中に東日本大震災が発生しました。最上地域の被害は軽微でしたが、東北の沿岸部や福島県での復旧・復興に向けた事業が動き出したことで人員の削減は当面見送ることになりました。
スポンサー支援と従業員の奮起で業績伸長
その後バンクミーティングで再生計画に同意していただき、スポンサー支援のもと、新会社の設立と旧会社の吸収分割を実行しました。従業員の雇用を守りたいという旧経営陣の思いを汲んでいただき、人員整理を行わずにスタートできたことが何よりも幸いでした。また、メインバンクをはじめとした金融機関には新会社のスタートをとても前向きな取組みとして捉えていただいたことで風評や従業員への不安も軽減できたと思います。
加えて、スポンサーの支援がその後の成長につながりました。現在の社名もスポンサー企業からの提案によるもので、3社の誇りも受け継がれました。また、初代社長もスポンサー企業から派遣いただきましたが、技術的な指導はもとより、3社従業員の融和に心を砕いていただきました。従業員の多くは地元工業高校の同窓生が多かったこともあって、様々な社内行事を通じて交流の機会を設けていただき一体感も醸成できたと思います。
再生計画書で掲げられた経営目標は、旧3社の経営実態からするとハードルの高いものでしたが、3社の工事実績が合算されたことで参加できる入札の幅が広がったこと、東日本大震災の復興需要を手掛けたことなどから、計画を上回るペースで業績を伸ばすことができました。
DDで受けた助言も忠実に守り続けてきました。特に収益管理は一層の工夫を重ねており、各現場ごとに1週間単位で収益を細かく確認し、改善につなげております。また、効果のあった現場の取組みを横展開することで全社的な収益確保につながっています。こうした取組みは、現場を担う従業員が各社の技術やノウハウの共有を図り、現場でも忌憚のない意見を出し合って業務の改善を続けることで支えられています。
当社の強みは意欲のある正社員たちです。同業他社が固定費削減のため、非常勤の職員依存が高まる中、当社では収益性を高めることで正社員が確保できるようになりました。その結果、近年頻発する災害への対応力でも自治体からの信頼が寄せられています。引き続き優秀な人材確保は重要ですが、ここでも社員達が人材確保に向けたSNSでの情報発信に取組んでくれています。中心になっているのは、旧会社が苦境にある時期に入社した社員です。自分の後になかなか新人が入らず、この先どうなるか分からない不安を若手に経験してほしくない一心だと聞いています。従業員のためにも、旧会社の轍を踏みたくありません。
これまでに事業再生を機に、合併、スポンサー支援の相乗効果を積み重ねてきましたが、足下でも大型の公共工事や災害復旧事業などで仕事量は確保できており、おかげ様で売上げも大きく伸張することができました。収益も大幅に改善し、自己資本比率も50%を超えて借入れに依存しない経営が続けられています。
土木建設業を巡る環境は厳しい状況が続いていますので、業績が伸びている今こそ気を引き締め、自社の強みを活かした経営を徹底してまいります。
経営の異変は専門家に相談を
再生を振り返って思うのは、経営に異変を感じたらすぐに身近な専門家に相談すべきだということです。今回のような事業再生の手法は経営者3人では想像もできなかった内容でした。自分たちだけで何とかしようと思ってもすぐに限界が来てしまいます。会社経営も身体と同じで、問題を先延ばしにしても良いことはありません。悩まれている方がおられましたら、専門家や支援機関への早め早めの相談を強くおすすめします。
