インタビュイー
宮城県中小企業活性化協議会
統括責任者
髙橋 良輔 氏
宮城県中小企業活性化協議会
統括責任者補佐 弁護士
村瀬 幸子 氏
東北経済産業局
― 中小企業活性化協議会の支援内容について教えてください。
髙橋 氏
中小企業活性化協議会(以下、「協議会」という)は、「中小企業の駆け込み寺」として、47都道府県に設置されている公的支援機関です。収益力改善支援、経営改善、事業再生、そして再チャレンジ支援まで、事業者のフェーズやお悩みに応じて支援を行っています。
再チャレンジ支援は、こうしたフェーズに応じた協議会支援の中で重要な取組の1つです。事業再生を目指す経営者は、「今日はそういう話をしに来たのではない」と思うかもしれませんが、その点は注意しながら、制度を丁寧にご説明するというのが基本スタンスです。
廃業・再チャレンジについては、経営者がどこかのタイミングで必ず決断をしなければなりません。企業経営においては、再チャレンジ局面を迎える可能性を想定するということと、実際に直面した際の行動を含め、さまざま制約がある中で「社会的にこういう制度が整備されていますよ」ということはお伝えしなければなりません。そういったお話が事業者の心のどこかに残っていれば、次のステージ(廃業や再チャレンジ)には進みやすいのかと思います。
― 協議会では再チャレンジ支援に限らず、企業の事業再生にかかる支援を幅広く行っているのですね。こうしたセンシティブな部分での支援を行うに当たっては、支援側にはどのような能力が求められるのでしょうか。
髙橋 氏
事業者が問題や課題を抱えたときに、「こんな解決方法があって、こういった方法が向いているのではないか」と提案をしていくことが、協議会としての仕事なのではないかなと思っています。企業経営というのは、やはり経営者がご自身で覚悟や自覚をもってやられていることだと思いますので、「想い」や「気持ち」という目に見えない部分を含めた判断ができるようなお手伝いをしたいと思っています。ご相談はもちろん事業者により内容がさまざまですので、相手の想いや現状を把握しながらレベル感に合わせたお話ができる、我々としてもそこまで成長しなければならないと考えています。
経営者は経営者なりの覚悟をもって経営をしてきているはずなので、対等な立場で丁寧なお話をしなければ、と思っています。例えば頭ごなしに何かを否定するとか、そういった話し方は絶対にしないようにしています。こういう仕事というのは、知見や経験はもちろんのこと、やはり礼儀や節度など、そういった部分もわきまえていなければならない仕事ですからね。
協議会は、企業が抱えるあらゆる問題・課題のご相談を受けて、それをどう解決するかのお手伝いをさせていただいています。あとはその支援のレベルに応じた計画を作成します。どんな計画を実施するにしても、経営者の納得というか、腹落ちが無いとできません。「あなたの会社はこうですよ」とか、「金融機関がこう言っているからこうしましょう」とかではなく、経営者と話をしながら、ご支援をしている金融機関からもコンセンサスをいただき、その中で見合った支援をするというのが難しいところでもあります。そうした部分に関しては、経験則も踏まえて調整能力が問われるのではないかと思います。金融機関と経営者でそれぞれに考えがありますので、そういった問題に入っていくというのは、覚悟なども含めた諸々のスキルが無ければいけないのだろうと感じています。
― 続いて、村瀬弁護士にお伺いします。協議会による再チャレンジ支援の具体的な内容について教えてください。
村瀬 氏
相談企業への支援段階において、残念ながら事業再生が極めて困難と判断される場合に、経営者の事業清算の早期決断を促し、保証債務を整理して「再チャレンジ」することを支援するものです。具体的には、東北6県に所在する協議会の専門家(案件担当者)と一緒に、経営者からの相談に対応し、廃業や保証債務の整理などについて説明や助言を行うこと、また必要に応じて、外部の詳しい弁護士の紹介をすることが主な業務となります。会社や経営者の状況に応じて弁護士としての知見を踏まえて説明させていただいています。
平成30年から協議会の再チャレンジ支援制度が始まりましたが、制度の浸透とともに、コロナ禍や物価高等の影響により事業再生が困難な中小企業が増加していることに伴って相談案件も多くなってきているのが現状です。
― 長年頑張ってこられた経営者に会社をたたむ提案をするのはなかなか難しいことかと思います。その際の言葉がけ、あるいは進め方の難しさといった部分はいかがですか?
村瀬 氏
もちろん多くの経営者は事業継続を前提にして相談に来られています。協議会としても事業継続を支援するための様々な計画策定支援メニューをご用意して相談に応じていますので、そこから、事業継続を断念して会社をたたむという選択肢に関するお話をするのは大変難しいですね。話の矛先を変えるタイミングと言いますか。やはりそこは、経営者と我々支援専門家との間で信頼関係が築けていることが前提にはなってきますね。
髙橋 氏
村瀬弁護士は、事業者の状況を整理し、どの方向に進むことがより良いかということを専門的な知見に基づいて判断し、あらゆる法的なプロセスに対し、経営者へご説明するのが役割の一つです。当協議会は、村瀬弁護士が着任するまでは、日本で一番保証債務の整理支援が進んでいないとまで言われた組織でしたが、村瀬弁護士が来てからは我々支援専門家も含めて色々なことが良い方向に変わりました。我々は、ご連絡をくださった方、相談に来られた方はとにかく全て受け入れて、話を整理するということを行っています。特に再チャレンジ支援では、専門的な知見はもちろん、支援側の心持ちや経営者の相談への対応力が重要と考えています
― 経営者が円滑に廃業し再チャレンジすることまでを見据えたときに、現在の事業継続の可能性を見極めるための基準はあるのでしょうか?
村瀬 氏
まだ頑張りたい、と言う経営者に対して、協議会としては事業の再生が極めて困難であると判断していたとしても、いきなり会社をたたむことを決断するステージに入ってきているとは言えないので、客観的な視点から事業再生が極めて困難な状況であることを丁寧に説明して、このまま事業継続する場合の資金繰りの見通しをみながら意見交換し、円滑な廃業を目指すことも選択肢の一つであることをお伝えします。また、会社をたたむ方法にはいろいろあり、会社の状況に応じて検討することになりますが、いずれにしても費用がかかりますので、必要となる費用の概要についてのご説明も行います。そういった説明を経て経営者から生じる疑問点を解消しながら、会社をたたむということも選択肢の一つであることをご理解いただくという流れです。弁護士として、会社をたたむ決断が遅れることにより生じる取引先や従業員等へ悪影響もしっかりご説明し、早めに決断すれば周りへの悪影響をなるべく抑えた円滑な廃業を目指すことができ、破産せずとも経営者保証ガイドラインによって保証債務の整理を行い再チャレンジが可能となり得ることなどを説明します。
― 協議会からは、直接会社整理を勧めるのではなく、事業のたたみ方のシミュレーションを行うイメージなのですね。
村瀬 氏
あまりこちらでイニシアチブを取りすぎて、経営者からすれば「頑張りたくて相談に行ったのに破産を勧められた」ということになっては元も子もないですし、最後に決断するのは経営者ですので、やはりそこは細心の注意を払っています。経営者の多くは窮地を乗り越えてきた成功体験がありますので、今回のケースがまた乗り越えられるものなのか、それとも諦めなければならない状況なのかというのは経営者が一番よくわかっていることが多いと思います。協議会側の考えを一方的に押し付けることはしないようにしています。
髙橋 氏
見極めが大切なのではないかと思いますね。どこまでお話したほうがいいのか、そういった部分は関係性・信頼性の構築にかかっているのではないかと思います。
村瀬 氏
会社をたたむ際には、その会社に応じて法的な問題が色々生じます。一般的にはこうだけれど、この会社の場合だとこうなるとか。そういった会社をたたむ決断をした後に生じる具体的な問題については、代理人弁護士に相談してもらうほうがよいので、協議会としては、再チャレンジ支援事業を通して会社をたたむ決断をするまでを支援させていただく流れになっています。
― 村瀬弁護士が協議会の仕事にご関心をもたれたきっかけは何だったのでしょうか?
村瀬 氏
弁護士には色々な業務がありますが、その中でも特に地域経済を支える中小企業を支援する公的な機関で働いてみたいと感じたことでしょうか。キャリアを積む中で、挑戦してみたいと思っておりました。
― 再チャレンジ支援に対するやりがいや想いは何かございますか?
村瀬 氏
事業をたたむ際、誰にも迷惑をかけずにきれいな形で終わるということはなかなか難しいですが、決断が遅れると取引先や従業員など及ぼす悪影響が大きくなるので、早めに決断ができるようなお手伝いをさせていただくことが大切だと思っています。経営者が円滑な廃業を実現して再び何かにチャレンジして地域経済を活性化させていく、そういうお手伝いができることにやりがいを感じています。
髙橋 氏
弁護士としての矜持というか、強い想いがあるからできるお仕事ですよね。完全にビジネスライクになってしまっては務まらない仕事だと思います。神妙な面持ちで相談に来られた方が、最後は少しほっとした様子で帰っていかれることが一番ですよね。
村瀬 氏
そうですね。経営者は、業況が厳しく悩んでいても、社内では会社をたたむ相談をしづらいですし、外部にも相談できる相手が見当たらないことも多くあると思います。協議会のような公的機関が、そういった悩みを抱える経営者の「駆け込み寺」になれるのが良いと思います。協議会としてお手伝いできることにはまだまだ限界があるのがもどかしいですが、今ある再チャレンジ支援制度を通じて、経営者のお悩みを少しでも解消できるよう努めていきたいです。
― 本日は貴重なお話をありがとうございました。
東北経済産業局 産業部 中小企業課
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